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授業における「見える化」を考える

近年、様々な領域で「見える化」(可視化)がキーワードとなっている。
「見える化」とは何なのか?何のために必要なのか?どんな効果が得られるのか?
「見える化」の原典を読んで、自分のフィールドでどのように活かせるか考えてみた。

「見える化」の原典は次の一冊だ。
『見える化-強い企業をつくる「見える」仕組み』遠藤 功
 

この本では「見える化」について次のように述べている。
「見える化」が何を目指しているのかここからよくわかる。

 

 私たちは普段、「見える」ことが当たり前だと思って生活している。そもそも「見える」ことの大切さを日常的には意識しないほど「見える」ことが当然のことだと考えている。しかし、実際には私たちには「見えていない」……そう、人間は当たり前のことだが、「すべてを見ることはできない」のだ。……自分の目の前に現れたこと以外には、人間は「見えない」のである。
 「見える化」というコンセプトは、こうした人間の視覚が持つ弱点を補うために生まれたと言ってよい。人間が何でも「見える」のであれば、「見える化」などというコンセプトはわざわざ必要ない。漫然としていれば「見えなく」なってしまうからこそ、自分の目の前にあらわれたことをきちんと「見る」ことが大切だし、必要なものをきちんと「見える」ようにすることが大切なのである。  

「見える」ようにするのは人間の意思だ、世の中には「見せたくないもの」がたくさん存在する。悪い情報、守秘性の高い情報、囲い込まれている情報など。 

「見せよう」とする意思、「見える」ようにする知恵、その二つがなければ「見える化」は実現できない。 人間の意思と知恵があってこそ「見える化」は実現され、維持される。


つまり、、「見える化」の本質は「問題を『見える』ようにすること」なのだそうだ。
問題が見えていれば、自立的に物事を判断し、適切な行動をとることができる。
しかもそれが自然と目に飛び込んでくる状態が理想だ。

「見える化」にとって重要なのは幾つかある。
「悪い情報」「後ろ向きの情報」が見えていること。
しかも名人的、属人的に見えているのではなく、誰でも見られ、組織として見えていること、
タイムリーに見えていること、
そして、伝聞ではなく、一次情報が見えていることだ。

たとえば、よく見かける「信号機」や「スコアボード」は「見える化」のお手本だ。
信号機……メッセージを伝える
情報やシグナルをタイムリーに誰の目にもわかりやすい形で見える。
シンプルさ、わかりやすさ。色の持つ意味を全員が理解している。

野球場のスコアボード……情報がコンパクトに凝縮されている。
無意識のうちに「見える」環境になっている。
野球場からスコアボードが消えたら??ゲームが成り立たないくらい重要なツール。

「見える化」には次のようなカテゴリーがあるという。これもとても参考になる。

問題の見える化 ・異常の見える化 ・ギャップの見える化 ・シグナルの見える化 ・真因の見える化 ・効果の見える化
状況の見える化 ・基準の見える化 ・ステータスの見える化(進捗状況・リソース)
顧客の見える化 ・顧客の声の見える化 ・顧客にとっての見える化
知恵の見える化 ・ヒントの見える化 ・経験の見える化

経営の見える化 タイムリーにモニタリングする

そして、最終的に目指すべき「見える化」とは「問題解決のための情報共有」である。
 
「見える化」のルーツはトヨタ自動車だそうだ。
トヨタ自動車は、自動車製造に「カンバン方式」のような見える化の手立てを次々と行い、イノベーションを成し遂げた。
社長の渡辺氏は、かつて「見える化」について、次のようにコメントしている。
「成長している時は問題点が潜在化して見えなくなる。開発や調達、生産、販売など各部門が抱えている兆候を『見える化』し、何が足りず何を補強すべきなのかを明確にする」
 この言葉を、授業に置き換えるとどうなるだろうか?
「授業がうまくいっていると、問題点が潜在化して見えなくなる。一人一人の子どもが抱えている問題の兆候を『見える化』し、何が足りず何を補強すべきなのかを明確にする」 
このように、「見える化」の本質は、まずなにより「問題を『見える』ようにすること」にあるらしい。

授業における「見える化」を考えてみた

1、「見える化」をするまえに、そもそも何が見えていないかを明らかにする
 授業では、子どもたちはさまざまな反応を見せる。試行錯誤をしたり、つまずいて立ち止まったり。しかし、それらの多くは、教師のコントロールは及ばない潜在化したものとなる。
また、人は得てして、都合の悪い面から目を背けたり、隠してしまう傾向もある。それらの問題点を顕在化して対応していくようにすることが「見える化」のポイントということになろうか。
 学習の中で見えにくいもの、見たくないものは何か? そこを省察するところから「見える化」がはじまるのだろう。

2、何を学習すべきか「見える化」して伝える
 教師主導の授業では、子どもたちは与えられた指示通りに学習に取り組めば良い。しかし活動中心の授業においては、子どもたちは自分で考えて学習に取り組まないといけない。子どもが学習に向かうために必須なのが、次の三つの「問い」である。

 WHY  「なぜ」この学習活動に取り組むのか?【学習の目的】
 WHAT そのために、「何を」すればいいのか?【学習の内容】
 HOW  その活動に、「どのように」取り組めばいいのか?【学習方法】

 この三つの問いが具体的であり、誰でもわかるようなものであれば、ことさらに「見える化」は必要ない。しかし抽象的な課題であるときには、それが具体的に「目に見えて」イメージできるようなものであることが必要だ。
 たとえば、単元が始まる時に、取り組むべき課題を板書したり、学習の見通しをプリントして配布すること、制作する課題であれば、事前に作ってみたモデルや見本を提示することなどによって、何をすればいいのかが具体的にイメージできるようになるだろう。

3、一人ひとりの学習プロセスを支援するために「見える化」する
 一人ひとりの子どもの学習状況を的確に見取るのは難しい。
名人級の先生は、顔つきとか、つぶやきとか、ノートの記述を見てその場で状況をつかむことができるのだろう。しかし、工夫次第で「見える化」によってある程度、学習状況を把握することは容易になる。
たとえば、次のような手立てが考えられる
・毎時間の振り返り作文
・学習内容をまとめて集積するポートフォリオ
・模造紙やホワイトボードなどに書き出す、教科書やプリントに書き込む
つまり、頭の中に考えていることを、いかに文字や記号などで表出させるか、その具体的な手立てを高じるということだ。
 煩雑なので、あまりおすすめはできないが、学習状況をビデオなどで撮影するという方法もある。たとえば、スピーチや話し合いの様子をビデオに撮って後でふりかえる活動などだ。
 最近はiPadなどのタブレットにより、これらの記録はとても簡単にできるようになっている。しかし情報量が膨大になりすぎるので、それらをどう編集してタグ付けしたり、抽出するかが鍵となるだろう。

4、共同的に問題解決をするための情報共有として「見える化」をする
 「見える化」は、教師が子どもの学習状況を見取るためだけでなく、子どもたち同士でモニタリングできるような状況を作る配慮が効果的だろう。しかも、目に見える形で。
 たとえば、「書き込み回覧作文」や付箋によるアドバイスなどの交流は「見える化」の手立てだ。
 ツールによって交流を可視化することで、子どもたち同士の共同的な問題解決を促していくことができる。

5、学習成果を振り返り、定着させるために「見える化」をする
 子どもたちは学習した成果をどのように自覚しているだろうか? 
 たとえば学習成果を「テスト」という形で可視化することはできる。しかし「テスト」だけが学習成果なのだろうか?そうではあるまい。もっと、学びにつながる発見や気づき、実感があるはずだ。それらを「見える化」して定着させていきたい。
 そのためには一手間をかけ、学んだものをポートフォリオや振り返り作文の形で「見える化」し、意味づけて残すことが重要になる。
 活動したらそれで終わりではなく、学習活動によって何を得て、それをどう活かしていくのか「見える化」によって積み重ねていくことが大切なのだ。

 問題を発見するための「見える化」、問題を解決するための「見える化」、そして課題を協同で解決するための「見える化」、そして、学習成果を定着させるための「見える化」の四つが授業における「見える化」のポイントとなってくるだろうと思う。

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