top of page

書くこと指導の展望と課題

文科省から出されている、学習指導要領や指導事例集から「書くこと」の記述を取り上げ、「書くこと」指導が今後どのように変わっていくかを予測してみたい。

日本の「書くこと」指導の展望と課題

結論
1 具体的な実生活での場面を想定した書くことの学習が行われるようになるだろう。
2 文種(ジャンル)を意識した学習が行われているようになるだろう。
3 目的や相手を意識した「書くこと」が中心となるだろう。
4 読むことと関連した「書くこと」の学習が増えてくるだろう。(編集など)
5 書くことの学習過程に「交流」する活動が増えてくるだろう。

1については、「実生活に生きてはたらく言葉の力」というスローガンの通り、具体的な生活場面での書く学習がますます増えてくるものと考えられる。
メリットとしては、実社会で役に立つ、書く目的や内容をイメージしやすいといった点が上げられる。
デメリットとしては、中学生にとっての実生活といってもとても狭いので、書く題材が限られてしまう点が上げられる。どこの実践例や教科書を見ても、学校紹介、部活紹介、職場体験など似たり寄ったりの題材で、、中学生にとっての生活の中での題材のため、リアリティーはあるかもしれないが、新しい・ユニークな「作文ネタ」が生まれる余地はあまり多くないように思われる。
書くことの学習では、今行っている学習が、「実生活とどのような関わりがあるのか」「社会でどのように生かされるのか」が問われることになるだろう。

2、言語活動例では。記録・意見などのジャンルを明確に示している。
従来は「書くこと」=「作文」というあいまいなジャンル意識で指導をしてきた傾向がある。
明確なジャンル意識を持ち、ジャンルの特質に応じた、目的や方法、言語技術をしっかりと指導した学習活動が今まで以上に求められることになるだろう。
書くことの学習では「今書こうとしているジャンルは何か、その特徴をどのように捉えているか」が問われることになる。

3、1とも関連するが、「相手や目的に応じた」表現が今後ますます重要視されてくる。
デメリットとしては、小論文を書くトレーニングや、描写・説明スキルを鍛える学習など、具体的な相手はあまり想定されていないけれど、純粋に文章表現力を鍛えるような学習は否定される傾向が生じる可能性がある。
また、自己を省察する作文や、自由にのびのびと表現力を磨くような、従来の生活綴り方が大切にしてきた「作文教育」や、筑摩書房版の高等学校国語科教科書『表現』(2001)が伸ばそうとした自己を解放する表現学習としての書くことの指導は、今後はますます否定される傾向に進むだろう。
書くことの学習では、「何のために書いているのか、誰に向けて書かれているのか」を指導者も,学習者も想定することが必要になるだろう。

4、PISA調査問題のような読解→表現する書くことの授業や、書いてあることを編集する学習が「書くこと」の指導で注目されるようになっている。
読み取ったことから自分の考えを深め、記述することや、データや文章を引用して説得力のある文章を書く学習が、上記1~3と関連しつつ増えていくことが予想される。
「編集」の学習はまだ未知の学習内容であり,十分に実践が出てきていない。
問題点として、読むことと書くことを関連した学習事項であるために、現在の領域ごと分けられた学習指導要領の指導事項では十分に対応できていない点が上げられる。例えば、読むことと書くことの両方を重視した学習活動であるが、指導者はどちらかに重点を置いて指導することを意識しなければいけない制約がある。(言語活動例が領域ごとにはめ込まれているため、例えば物語の続きを書く学習は、読むことの指導が多いにもかかわらず、「創作」と位置づけると自動的に「書くこと」の学習になってしまう)
書くことの学習では「アウトプットする前に(書く前)に何をインプットした(読んだ)か、読んだ情報をどのように加工しているのか」という視点まで視野を広げて単元を構想することが増えるだろう。

5、「書くこと」の指導事項に「交流」が新設された。従来の指導事項の中の「評価」の項目が、相互批正、相互批評の要素を反映して「交流」になったものと考えられる。
「交流」の学習活動についてはまだ十分に実践が開発されているとは言い難い。
読み合って良いところを指摘する、回し読みして感想を書く、などの学習はこれまでも多く行われてきたが、「書く力に結びつく交流のあり方」についてさらに研究を進める必要があるだろう。記述後の交流だけでなく、発想段階での交流、構想段階での、記述段階での、推敲段階での、などなど、書く活動のプロセスに応じた交流のあり方をさらに研究を進める必要がある。
書くことの学習では「交流が学習過程の中でどのように生かされているか、情報交換や形だけの交流ではなく、お互いのコミュニケーションを通してプラスとなる交流、どのような目的や成果のある交流であったか」という視点で交流が評価されることになるだろう。

参考にした、文科省の学習指導要領、指導事例集などの「書くこと」の記述
平成20年版 中学校学習指導要領「書くこと」領域の言語活動例から
中1
ア 関心のある芸術的な作品などについて, 鑑賞したことを文章に書くこと。
イ 図表などを用いた説明や記録の文章を書くこと。
ウ 行事等の案内や報告をする文章を書くこと。

中2
ア 表現の仕方を工夫して,詩歌をつくったり物語などを書いたりすること。
イ 多様な考えができる事柄について, 立場を決めて意見を述べる文章を書くこと。
ウ 社会生活に必要な手紙を書くこと。

中3
ア 関心のある事柄について批評する文章を書くこと。
イ 目的に応じて様々な文章などを集め,工夫して編集すること。

ちなみに、小学校の「書くこと」の言語活動例は次の通り
小1・2年
ア 想像したことなどを文章に書くこと。
イ 経験したことを報告する文章や観察したことを記録する文章などを書くこと。
ウ 身近な事物を簡単に説明する文章などを書くこと。
エ 紹介したいことをメモにまとめたり,文章に書いたりすること。
オ 伝えたいことを簡単な手紙に書くこと。

小3・4年
ア 身近なこと,想像したことなどを基に,詩をつくったり,物語を書いたりすること。
イ 疑問に思ったことを調べて,報告する文章を書いたり,学級新聞などに表したりすること。
ウ 収集した資料を効果的に使い,説明する文章などを書くこと。
エ 目的に合わせて依頼状,案内状,礼状などの手紙を書くこと。

小5・6年
ア 経験したこと,想像したことなどを基に,詩や短歌,俳句をつくったり,物語や随筆などを書いたりすること。
イ 自分の課題について調べ,意見を記述した文章や活動を報告した文章などを書いたり編集したりすること。
ウ 事物のよさを多くの人に伝えるための文章を書くこと。

言語活動例の記述をジャンルごとに整理してみる。
小学校
文学的文章の創作系列
想像したことを書く→詩・物語→短歌・俳句・随筆
説明系列
報告・観察・記録・新聞・意見・編集・説明・紹介
手紙系列
手紙→依頼状・案内状・礼状

中学校
文学的文章の創作系列
鑑賞・詩歌・物語・批評
説明系列
説明・記録・意見・編集
実用的文章系列
案内・報告・手紙

「読解力向上のための指導事例集」平成18年
中1
課題に即応した読む能力の育成
→対象と目的を明確にした「お薦め本パンフレット」を作る
中1
多様なテキストに対応した読む能力の育成
→複数のアンケートの結果をグラフで表し、レポートを書く。.
中2
テキストを利用して自分の考えを表現する能力の育成
→新聞に自分の意見を投稿する
中3
日常的・実用的な言語活動に生かす能力の育成
→郷土の詩人「朔太郎の世界」をパンフレットで紹介する

全国学力・学習状況調査の結果を踏まえた授業アイディア例(平成23年)
◎相手に応じた適切な表現で案内文を書くことができるようにする。
◎作成した資料を目的や相手に応じて再構成し,その理由を説明することができるようにする。
◎新聞記事を読んで,着目した箇所やその理由を明確にして,感想を具体的に書くことができるようにする。

「言語活動の充実に関する指導事例集」より(平成23年)
1年
行事等の案内や報告をする文章を書く事例
学校からの「お知らせ」を書き換えよう~伝えたい事柄について,自分の気持ちを根拠を明確にして書く~
2年
社会生活に必要な手紙を書く事例
心に届けたい言葉を添えて年賀状を書く~心情が伝わるように工夫して書く~
3年
関心のある事柄について批評する文章を書く事例
高等学校のパンフレットを批評する文章を書こう~資料を引用して書く~
3年
論説や報道などの情報を比較して読み,書く事例
「部活動新聞」を作ろう~目的に応じて文章の形態を選択して書く~

bottom of page