国語教育授業実践開発研究室
国語科で読書指導の意義をどう捉え、実践していけばよいのか考えた論考をこちらに掲載します。(中学校の国語科の学習を念頭に置いています)
「学びの連続性」をつなげていく読書指導に
渡辺 光輝
(2016/08/18 千教研柏支会国語部会研修会資料から)
はじめに
そもそも読書指導とは何を目指し、どうあるべきなのだろうか。それを私は「学びの連続性」というキーワードで考えてみたい。
本来、学びとそれによって得られる「知」は狭く閉じこもったものではなく、どこまでも広がり、つながり合ってネットワークとなっていくものである。それは、社会とつながり、歴史とつながり、そして、ともに生活を送る他者とつながり、共有されていくものである。
しかし、学校の教育活動は便宜上、教科や領域で分断されてしまっている。教科ごとに決められた内容を、決められた教材(教科書)で学んでいくのが、生徒が日常受ける授業のほとんどである。中学、高校になると、その「教科の壁」はさらに強くなり、知は分断されていく。
読書指導、読書教育は、そのような分け隔てられた知の世界に「学びの連続性」を作り上げていく営みであるといって良い。読書による学びから、教科書を飛び越え、教科の壁を壊し、他者や社会へとつながっていくのである。そしてその学びは、学校を卒業した後も、学習者のその後の生涯につながり、活用されていく力となっていく。
そのような「学びの連続性」を作り上げていく読書指導を中核となって推進していくのが、国語科の学習であることはいうまでもない。
国語科の学習と読書指導
他の教科、領域において読書を活用した学習を進めていくことができる能力の素地を築くのが、国語科の読書指導の役割である。また、学習者が生涯にわたって読書に対する意欲を持ち、読書習慣を形成し、読書をするために必要な技術や情報活用能力を育成することも国語科の大切な役割である。
読書指導は「図書館利用教育」と同列で語られることが多い。NDCなどの分類、排架の知識や、図書館の検索の技術を身につけることが重要であることは言うまでもない。しかし、読書指導が図書館を利用するためだけに行われるものであるとするならば、それは本末転倒である。読書指導は、図書館を利用する(場合によっては利用をしない)その「先」にこそ究極の目的があり、それを目がけて行わなければならないからである。図書館を利用する、しないに関わらず、国語科の読書指導においては、読書活動を通して、どのようにして課題を解決するのか、読書によって何を得るのかという目的や課題を明確にして取り組むことが肝要である。
以下、本稿では、国語科で取り組む読書指導として「読書活動による読書生活の活性化」「探究型学習を支えるスキルの育成」「読書コミュニティの形成」という三つの視点で考えてみたい。
-
多彩な読書活動で読書生活を活性化する
これまで、意欲的な実践家によってさまざまな読書活動の実践が開発されてきた。
-
読み聞かせ
-
ブックトーク
-
ストーリーテリング
-
10分間読書
-
読書会
-
ブッククラブ
-
リテラチャー・サークル
-
読書へのアニマシオン
-
読書紹介
-
読書感想文
-
本の帯・ポップ作り
これらを国語科の学習として取り組む場合、どのような点に留意すべきなのだろうか。
A 本を読むことに重点を当てた取り組み
-
読み聞かせ
-
ストリーテリング
-
10分間読書
まず、作品をひたすら読む活動を取り上げる。
読み聞かせは、読み手の肉声を通して、全員で一つの作品を味わう。絵本の場合は絵も一緒に見ながら想像を膨らませる。本を通して、肉声を介して、聞き手と語り手とが一体感を感じ、本を読む喜びを共有することができるのが読み聞かせの最も大きな効果だろう。
読み聞かせは、教師や読み聞かせボランティア、学校司書によって行われることが多い。幼稚園や小学校と比べ、中学校では実践されることは少ないが、中学生が自ら読み聞かせに取り組む際には、それを楽しむための適切な場を設定することができれば、読書の喜びを味わうことのできる活動となるだろう。
ただし、中学生段階になると、生徒の読書に対する興味や関心も様々である。一つの作品を一方的に聞くだけという受動的な活動を苦手とする生徒も存在する。また、読み聞かせは、本来、教室のような大きな空間で、30〜40人という集団を相手にして読むことには適していない。読み手、聞き手の反応を感じることのできる程度の少人数で、中学生でも興味を持てる作品を選んで読み聞かせしあうようにするなどの工夫が必要だろう。
10分間読書は「朝の読書」などの形で、様々な学校で取り組まれるようになってきた。部活動や宿題などで忙しい中学生にとって、たった10分間といえども読書をする時間を設定することは読書習慣の形成に絶大な効果がある。「ただ読むだけ」という活動は、ドリル的な学習と比べて成果が目に見えにくいものであるが、読書習慣を育てていく意義を自覚して、継続的な取り組みとしていくことが必要である。
10分間読書の取り組みに当たっては、まずはどんな本でも、全員が本を手に取り、読む楽しみを味わわせることを目当てとし、その後、活動が定着してきたら、選書の幅を広げさせたり、質を高めさせたりしていく支援が必要だろう。学級文庫などを作り、生徒が気軽に本を手に取ることのできる環境作りが効果的である。
B 本を紹介することに重点を当てた取り組み
・ブックトーク
・ビブリオバトル
・おすすめ本の紹介スピーチ
・読書ゆうびん・紹介カード
・本の帯・ポップ作りなど
・読書感想文
「ブックトーク」とは、テーマを決めて複数の本を関連づけて紹介する読書活動である。主に学校司書などの大人の手によって行われることが多い。しかし中学生であれば自分たちでテーマや構成を考え、ブックトークにチャレンジをさせてみても良いだろう。
スピーチやプレゼンテーションと関連させた本紹介の取り組みは、読書活動として最もよく行われているものである。ブックトークの他にも、おすすめの本紹介スピーチ、近年流行しているビブリオバトル(対戦形式で本を紹介し合う)などのさまざまな活動の形態が考えられる。これらの本紹介は、本のポップ作りなどの制作活動と関連させると効率的だろう。
本紹介の活動は、生徒にとって、お気に入りの一冊や、大好きな本がある場合、とても意欲的に取り組むことのできる楽しい活動となる。しかし、読書を苦手とする生徒や、好きな本が思いつかない生徒にとっては難しいものとなる。「紹介したい本がない」という生徒にとって、この活動をきっかけに「紹介したい本」と出会うことができるように、選書の支援をすることが不可欠である。前もって生徒の状況を把握しておき、学校司書と協力して、個別に選書の相談をするなどの支援が必要である。
読書感想文に関しても同様である。特に、コンクールに出品するような読書感想文では、通常の授業ではほとんど書くことのない大量の文量(原稿用紙5枚)で、読んだ本についてあらすじをまとめ、感じたことや考えたことを表現していく。多くの中学生にとって、とても負荷の高い学習活動であるということを教師は自覚すべきである。夏休みの宿題として丸投げにするのではなく、選書の支援、あらすじをまとめる学習、感じたことや考えたことを文章化する学習などについてのさまざまな手立てを、生徒の実態に応じて講じることが必要である。もしそれだけの支援がなければ、読書が苦手な生徒にとっても、作文が苦手な生徒にとっても、読書感想文が敬遠される学習活動となってしまい、ひいては読書嫌い、作文嫌いを生んでしまうきっかけともなってしまうこともあるだろう。
コンクールに出品するような作文でない場合は、具体的に誰に向けて、どのような本を紹介したいかという相手や目的を明確に設定することによって、それが生徒にとっての活動の目当てとなり、意欲を持たせることができる。
C 読書の感想交流に重点を置いた取り組み
-
読書会
-
ブッククラブ
-
リテラチャー・サークル
-
読書へのアニマシオン
この読書活動は全員が同じテキストを読んで感想を語り合うスタイルの学習である。古くは「集団読書」と呼ばれ取り組まれてきた。最近ではリテラチャー・サークル、ブッククラブなどの読書会や、読書へのアニマシオンなどの読書活動として取り組まれるようになってきた。
これらの読書会活動は、教科書の教材文主体の国語学習に時間を取られる現状では、なかなか腰を据えて取り組むことが難しい活動であるが、一つの作品を共同で読み深める経験は、教師主体の教材文読解学習では感じることのできない深い充実感を得ることができる活動となるだろう。
読書会のもつ良さは様々にあげることができるが、最大の利点は、読書の読み方や味わい方を他の読者と共有することができ、他者の意見を尊重する態度が身につくという点にある。
読書会などの交流活動では、一つの作品に対する、さまざまな読者の視点からの読みが提示される。心情を深く読み取るのが得意な読者、情景描写をイメージ豊かに味わうことのできる読者、作品の主題やメッセージについて読み取り、自分の考えを披瀝する読者など、一つの作品を通して、さまざまな読み方、味わい方と出会うことができる。このように、読書会を行うことで、自分の読み方にはない多様な読み方、味わい方に触れ、学ぶことができるのである。
読書会などの、一冊の本、作品を味わうことに重点を置いた取り組みの留意点は、それぞれの学習者の「差異」を大切にし、その「差異」が生きるような活動にしていくことである。全員が同じような感想を持つことをゴールにするのではなく、全員が一つの解釈に収斂していくことを狙うのでもなく、それぞれの視点、多様な価値観が交錯していくような交流としていくことである。多様な視点の読みと出会うことで、より豊かな学びとなっていくことができる。リテラチャー・サークルやブッククラブなどの様々な読書活動の方法は、そのような交流の良さを生かす様々な手立てがされている。具体的な方法については、下記参考文献にあたっていただき、学級の実態に応じて取り組んでみて欲しい。
読書へのアニマシオンとは、スペインの読書指導実践家、モンセラット・サルトが開発した読書指導の方法である。一冊の本をテキストに、様々な活動を通して学ぶことができる。その活動は「作戦」とよばれ、発達段階に即して、様々な読みの力を高めることができるように配慮されている。どの「作戦」も取り組みやすいものであるので、読書会のような活動に慣れていない生徒にとっても楽しんで活動することができる。是非サルト氏の文献を読み、実践してみて欲しい。
これらの読書会で得られたさまざまな読み方、味わい方は、教科書の教材文を読み込むような学習活動においても、日常の読書においても生かすことができるものである。日常の授業での読解学習や読書生活との連続性をどのように生かすことができるかが読書会型の読書活動の課題であろう。
2 探究型学習を支えるスキルの育成
国語科における読書指導の二つ目の大きな柱は、さまざまな探究的な学習を支えるスキルの育成である。
現行の学習指導要領では、基礎、基本を確実に習得する学習と、基礎的な知識や技能を課題に応じて活用する学習、さらには自ら課題を設定し、その解決に向けて取り組んでいく探究型の学習が示されている。探究型の学習を支えるのが学習センターとしての学校図書館であり、読書指導によって得られる情報活用能力である。
国語科の読書指導においては、他の教科や総合的な学習の時間などで行われる探究型の学習を支えるスキルを取り立てて指導していく方策を講じることが重要である。
探究型の学習は、どのようなプロセスをたどり、スキルを活用していくのだろうか。学校図書館を中心とした情報リテラシー教育に先進的に取り組んでいる欧米では、探究型の学習のプロセスモデルが提案されている。その中の一つが「ビッグ6スキルズ」と呼ばれるものである。
「ビッグ6スキルズ」
1 課題を定義する
1.1 課題を明確にする
1.2 解決のために必要な情報を得る
2 情報探索の手順を考える
2.1 利用可能な情報源を考える
2.2 優先順位を決める
3 情報源の所在を確認し収集する
3.1 情報源の所在を知る
3.2 情報源の中の情報を見つけ出す
4 情報を利用する
4.1 情報を読む、聞く、見る
4.2 適切な情報を取り出す
5 結果をまとめる
5.1 取り出した情報をまとめる
5.2 まとめた情報を提示する
6 評価する
6.1 成果を評価する
6.2 自らの問題解決プロセスを評価する
「ビッグ6スキルズ」とは問題解決のプロセスを6つに分け、さらに各段階を2つに分けたプロセスモデルである。探究型の学習を支えるスキルにはどのようなものがあるか、具体的に示されており参考になる。
調べ学習などで、生徒にとってスキルの習得が不十分であると実感するのは、第一に、課題を設定する力である。問題や答えのある学習に慣れきった生徒にとって、一から問題を設定したり、答えのない問を探究したりすることは難しい。課題が広すぎたり、解決できないような設定の仕方をしていたりする場合もある。課題を発見する方法や、課題を絞り込むことを、国語科でしっかりと指導をすることが必要である。
次に必要なスキルが検索する力である。インターネットの発達により、キーワードさえ入力すれば膨大な情報を得ることができるようになった。しかしその反面、情報のありかを推測し、かぎつける「勘」は衰えているとさえ感じる。どのようなキーワードを選択すれば適切な情報が得られるのか、得たい情報はどのような分野に広がっているのかなど、情報の広がりやつながりを推測する力が必要となる。
例えば「味噌」について調べるとする。その際には、「味噌」というキーワードだけでなく「大豆」「食文化」「調理法」「発酵食品」「細菌」など、様々な分野のキーワードまで視点を広げて検索することが求められる。一つのキーワードからどのような情報のネットワークが想定されるかという、「検索の網」を大きく広げることが求められるのである。
最後に課題となるのは、得た情報を評価する力である。生徒は、本やネットなどから得た情報を無批判に引用しがちである。しかし、得た情報が本当に適切なものなのか、情報の鮮度はどうか、信憑性はどうなのかなど判断をすることは不十分であることが多い。どのような観点で情報を評価するのか、情報の信頼性はどのようにして担保されるのかなど、情報の質を吟味する目を養うことが必要となる。
3 「読書コミュニティ」の育成
最後に、国語科における読書活動の意義として「読書コミュニティの育成」をあげたい。
近年「読書コミュニティ」という言葉が聞かれるようになった。それは、本への愛着や読書に関する取り組みを通して、人と人のつながりを築き、関係を深めていく社会的実践である。読書活動によって、地域とつながり、そして世界へとつながっていく取り組みである。
「読書コミュニティ」の実践では、本をいかに数多く読んだかということよりは、本を通してどのように社会に参加していくか、どのように他者とコミュニケーションをしていくかという点に重点が置かれる。「読書コミュニティ」の発想は、小さな社会ともいえる学級においても有効な視点である。本の持つ力、読書活動の持つ効果を通して、クラスの中の人と人とを結びつけていくのである。
読書は本来、「個」で行うものだ。読書の傾向は人それぞれであるし、同じ本を読んでも全員が同じ感じ方をすることはほとんどない。しかし、このような「個」の多様性が生かされる読書という特質こそが、個を伸ばすコミュニティづくりに生かされる。
読書活動を通して、学級を、個を伸ばすコミュニティとしていくことが可能となる。そのためには、読書活動において、教師が次のような視点を持っていることが必要だと思われる。
【読書コミュニティー育成のための視点】
A 興味・関心を重視する
一人ひとりの興味や関心をできるだけ重視し、それが反映されるような読書活動にする。
B 違いを鮮明にする
読書の傾向や感想は人それぞれである。それぞれの違いが鮮明になる活動を取り上げる。
C 交流し、認め合う活動をする
読書を通して得られた感じ方を、さまざまな手段で交流し、認め合う活動を行う。
Aの興味・関心を重視すること、「個」の思いから出発することは読書活動において最も重要な視点である。どんな生徒も意欲的に取り組むことができるような学習の場づくりや、個に応じた支援が必要である。読書活動に関して「良書に触れさせたい」という教師の思いが強すぎるあまり、生徒の実態や、生徒の興味や関心とかけ離れた活動になってしまわないように気をつけたいものである。
Bの違いを鮮明にするという点も「個」を伸ばしあうために欠かすことのできないポイントである。それぞれの好みの違い、価値観の違い、感想や解釈の違いを押し殺したり、十把一絡げにまとめてしまうのではなく、むしろ個の違いが鮮明になり、お互いの違いを楽しむことができるような読書活動にするのである。
Cの交流し、認め合う活動を、読書活動の中で教師が意図的に取り上げ、工夫していくことも重要である。クラスのなかで、とくに普段関わりの少ない人とでも自然にコミュニケーションが生まれるような交流の場を読書活動の中で効果的に設定することが重要だろう。
とくに、中学生という思春期の段階の生徒は、ややもすれば集団の中に埋没し、できるだけ目立たず、周りにあわせ、自分の個性を消そうとする傾向があるのではないだろうか。「個」を伸ばしあい、「違いを認め合う」関係性の構築こそがコミュニティとしての学級の理想である。そのために、特に中学校では子どもたちどうしのつながりが自然に広がり、コミュニケーションが豊かに交わされるような「読書コミュニティ」を、学級での読書指導によって意図的に作っていくという意識が必要であると考える。
4 学校司書とどのように連携していけばよいか
学校図書館法が改正され、学校司書の法制化が実現したことにより、多くの学校で学校司書が配置されるようになった。学校図書館に「人」が常時存在することの大きさは計り知れない。読書指導推進の鍵は、学校司書と他の教員とが、いかに緊密に連携を取り合っていくかといっても過言ではない。それでは、学校司書とどのように連携を図っていけばよいのだろうか。
気軽に授業の話をする
学校司書のいない学校でのこれまでの授業づくりでは、授業者である教師が全て一人で授業の計画、準備をしていた。しかしそのような認識はあらためるべきである。なぜなら、これらの作業は学校司書と協働で取り組んだ方が効率は良いし、効果が上がるからである。
例えば、授業の計画や資料収集の段階で学校司書に気軽に相談をする。そうすることで、学校図書館に精通する学校司書の視点から、どのような探究的な学習活動につなげる可能性があり得るか、どのような資料を活用できそうかというヒントを得ることができる。また、不足する資料はすぐに公共図書館などから取り寄せるという支援も得ることもできる。そのようなやりとりから、授業の構想がますます豊かなものとなっていくのである。日頃から学校司書と気軽に雑談し、授業の話をすることが連携の第一歩である。雑談の中から思わぬ授業のアイディアが生まれてくることが多い。
学校司書の専門性に頼り、任せる
学校司書との連携のポイントの二つ目として、「任せるところは思い切って任せる」という点があげられる。教師が全てを抱え込もうとするのではなく、任せて頼るという姿勢が重要だ。
特に、学校司書の専門性として、資料を管理、収集すること(他の図書館などから取り寄せることを含む)、ブックトークなどで図書を紹介すること、生徒に適切な情報、資料を紹介すること(レファレンスサービス)などは、授業の中で大いに活躍して欲しい分野である。また、読書意欲を高める学校図書館の環境作りにも学校司書の活躍は欠かせない。授業者が授業内容や要望を前もって伝えておけば、学校司書はその単元に関わる掲示物や本のコーナーを制作することもできる。
このような連携が可能になるのは、お互いの要望を明確に伝え、すりあわせをした上で、あとはお互いのやり方を信頼し、任せる姿勢を持つことからである。授業者である教師は教育内容(指導内容)や教材研究に責任を持ち、そのほかの資料収集やレファレンスなどは学校司書に任せ、協働で授業を作っていくのである。授業において、お互いの「出番」を明確にし、生徒が主体的に学習に取り組んでいけるように綿密に作戦を立てておくことが重要なのはいうまでもない。
「教師」ではないという利点を活かす
学校職員の中で、学校司書は子どもたちにとって「教師」ではない数少ない大人の一人である。それは決してデメリットではなく、むしろ最大の利点でもある。
休み時間や放課後に学校図書館に訪れる子どもたちの姿は、クラスや授業の中で見せる姿とは少し違う。ほっと素に戻り、気兼ねなく本音を打ち明けることができるのが、教師ではない学校司書のような立場の大人であることが多い。学校司書はこのような立場を生かし、子どもの育ちを支える存在でもある。図書館に訪れた子どもたちに、雑談を交わしながら、そっと背中を押してあげたり、そのときの子どもの気持ちにぴったり寄り添うような本を手渡して心を育てたりする。教師には知り得ない子どもの姿をたくさん知っているのが学校司書である。そのような学校司書のかけがえのない立場を尊重することが、回り回って子どもたちにとっての利益となる。このように、教師と学校司書と協働で子どもの育ちを見とっていくのである。学校司書と日常的に情報交換し合い、連携することによる利点は、授業の効果、効率という観点からだけでは計り知れない多くのものをもたらすことだろう。
読書指導をさらに学びたい人へ、参考文献の紹介
◯読書教育・読書指導全般について
山元隆春『読書教育を学ぶ人のために』世界思想社 2015年
国立教育政策研究所『読書教育への招待―確かな学力と豊かな心を育てるために』東洋館出版2010
上條晴夫『子どもを本好きにする読書指導50のコツ』学事書房 1996
〇読書活動について
高桑弥須子『学校ブックトーク入門―元気な学校図書館のつくりかた』 教文館 2011
マリア・モンセラット・サルト『読書へのアニマシオン―75の作戦』柏書房 2001
粕谷亮美『ビブリオバトルを楽しもう―ゲームで広がる読書の輪』 さ・え・ら書房 2014
有元秀文『「PISA型読解力」の弱点を克服する「ブッククラブ」入門』明治図書2010
プロジェクト・ワークショップ編『読書家の時間: 自立した読み手を育てる教え方・学び方【実践編】』 新評論 2014
〇探究型学習について
桑田てるみ『思考力の鍛え方 学校図書館とつくる新しい「ことば」の授業』静岡学術出版 2010
日本図書館協会図書館利用教育委員会図書館編『問いをつくるスパイラル―考えることから探究学習をはじめよう!』日本図書館協会 2011
〇読書コミュニティについて
秋田喜代美『本を通して世界と出会う―中高生からの読書コミュニティづくり』北大路書房 2005